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第 9 章

3時限目 ケトン食の臨床研究 - 血圧低下を裏付ける4つの論文

田中博士 著 · 🔒 50%無料公開 (続きはプレミアム会員)
0. 0時限目 体に老廃物が溜まると高血圧になりやすい 1. 1時限目 食物繊維は体の老廃物を除去し血圧を下げる 2. 2時限目 ケトジェニックダイエットと心血管疾患 3. 3時限目 ケトン食の臨床研究 - 血圧低下を裏付ける4つの論

鈴木美咲 一酸化窒素とおっしゃると、バイアグラを思い出します。新聞でバイアグラが海綿体で一酸化窒素を生成して、勃起不全の障害を改善すると書いてありましたが。それではケトン食をすればeNOSが多く出ますか?eNOSが多く生成されれば、性機能障害も改善する効果がありそうですね。

田中博士 ハハ、はい。研究によるとそうです。それではお話が出たついでに、関連論文を一つ見てみましょうか。この研究の題目は「タバコ煙に曝露されたウィスターラットのeNOS濃度およびVCAM-1発現に対するケトン体β-ヒドロキシ酪酸の効果[51]」です。

この研究は25匹のラットを用いてそれぞれ5匹ずつ5つのグループに分けました。対照群は2グループで、C(-)はタバコ煙を加えなかった対照群で、C(+)はタバコ煙を加えた対照群でした。そして実験群K1、K2、K3の3グループで、すべてタバコ煙を加えました。そしてK1は毎日ラットの体重1kgあたり1.5gのβ-ヒドロキシ酪酸を与えました。β-ヒドロキシ酪酸は前述のとおり、いくつかの研究に出てきたように、血液中に存在する代表的なケトン体です。そしてK2は3.0gを、K3は6.0gのβ-ヒドロキシ酪酸を与えました。

実験結果、eNOSはC(-)が平均234が出て、C(+)は21が出ました。つまりタバコ煙を加えたC(+)では、eNOSが急激に減少したのです。続いてケトン体1.5gを与えたラットは、eNOSが平均182に増加しました。そしてケトン体を3.0g与えたラットは、eNOSが263となり、タバコ煙を加えなかったラットより多く出ました。興味深い点は、ケトン体を6.0g与えたラットは、eNOSが21とむしろ低くなったことです。これはケトン体を十分に摂取したラットでは、それだけで血管調節がうまくいき、eNOSが多く作られる必要がなくなったと解釈できます。まるで平和な村で警察の活動が減るのと同じことです。

このような推論を可能にしたのがVCAM-1の発現値です。VCAM-1は「血管細胞接着分子1」と言いますが、炎症があるときに血管内皮細胞の表面で発生します。この分子は白血球が血管壁に付着して血管内に侵入するよう信号を送ります。これが多くなると血管に炎症が生じ、動脈硬化のリスクが増加します。ところがケトン体を6g摂取するようにしたグループで生成されるVCAM-1は平均6.4で、タバコを加えなかった対照群であるC(-)の平均8.2に比べて1.8低い数値です。

FIGURE
図9-3. ケトン食のeNOS生成に対する効果
X軸:グループ(C(-), C(+), K1, K2, K3)、Y軸:eNOS数値(pg/ml、0~600)。C(-)=234、C(+)=21、K1=182、K2=263、K3=21。
※ ここに棒グラフ(5グループのeNOS平均値比較)を挿入予定
表9-1. 各グループにおけるeNOSの数値(pg/ml)
グループeNOS 平均±標準偏差最小値-最大値p
対照群 C(-)5234±22517-5200.036
C(+)521±125-39
実験群 K15182±11174-357
K25263±20653-553
K3521±1012-34
表9-2. 各グループにおけるVCAM-1発現値
グループVCAM-1 平均±標準偏差最小値-最大値p
対照群 C(-)58.2±2.46.0-12.00.426
C(+)59.0±2.16.0-12.0
実験群 K157.2±3.04.0-12.0
K256.6±1.94.0-9.0
K356.4±2.54.0-9.0

鈴木美咲 わー、驚きました。タバコ煙を加えなかったラットより、タバコ煙を加えたがケトン体を食べたラットの方が、むしろ炎症が減ったとは。タバコを吸う方は必ずケトン食をされなくては。ハハハ。

全員 ハハハ(楽しく笑う)

※ VCAM-1は「血管細胞接着分子1(Vascular Cell Adhesion Molecule-1)」の略字である。白血球が血管壁に付く接着過程と、血管壁を貫通して外部組織に移動する経血管移住に重要な役割を果たすタンパク質である。特に炎症があるときにこのタンパク質の発現が増加し、ステロイドのような抗炎症剤はこのタンパク質の発現を抑制して抗炎作用を示す。VCAM-1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、内皮細胞がサイトカインによって刺激されたときに発現する。

田中博士 それでは続いて、実際にケトン食を行った後に血圧が減少した研究を見ていきましょう。この論文の題目は「超低カロリーケトジェニックダイエット(VLCKD)、抗高血圧栄養アプローチ[52]」です。2023年に掲載された論文ですね。

実験は2020年5月から2022年3月まで進行されました。参加者は30歳から60歳までの体格指数BMI 30以上で、食事療法に以前失敗したが、体重減量を望む女性でした。合計137名が参加しました。様々な疾患のある人は除外しました。ケトン食のカロリーは1日800キロカロリーで、炭水化物が13パーセントで1日30グラム以下でした。そしてタンパク質は体重1キログラムあたり1.3グラムで、43パーセントの熱量でした。脂質は44パーセント熱量でした。ケトン食は6週、42日間行われ、毎週電話で栄養士が対話をし、42週の実験前後に2回、人体計測を行いました。それではクイズを出しましょう。この実験でケトン比率はいくらでしょうか?

佐藤恵子 熱量で脂質が44パーセントなら、残りの56パーセントはタンパク質と炭水化物ですね。それではケトン比率は44÷56で、おおよそ0.78ですね。

田中博士 はい、素晴らしいです。そうです。ですからケトン食といって脂質が非常に多くなくても、ケトン比率が1.0程度になっても健康改善に役立つ可能性があるということです。実験結果、表9-3のように体重は97.74から90.77へ7.12キログラム減量しました。体格指数は37.00から34.37へ減少しました。腰回りは108.93から102.71センチメートルへ5.63センチメートル減少しました。血圧は収縮期血圧が140.88から122.56へ12.89mmHg減少しました。拡張期血圧は88.90から78.94へ10.93mmHg減少しました。

山田佳子 博士、がん患者の場合、ケトン比率は4.0が推奨されますが、この実験では1.0以下である0.78しかないのに、効果が大きいですね。

田中博士 そうです。これは私たちが日常で摂取する食事のケトン比率がわずか0.08しかないことを考えれば、納得のいく結果です。

山田佳子 そうですね。この実験結果を見ると、私たちが正常だと思っていた食事が、実は非常に体に負担となる、健康に役立たない食事だった可能性もあると思います。

田中博士 私たちの常識と異なる結果が多いですよね。だから人類の歴史、特に科学の歴史は絶え間なく前進するようです。一時的に揺らぐことはあっても、です。科学は無誤謬という誤謬を持たないからこそ、魅力的だと思います。つまり科学はいかなる事実も永遠に「誤謬がない」という「無誤謬」を主張しません。いかなる科学的事実と法則であっても、いつでも破られる可能性があるという姿勢を持っています。それでは続いて結果をもう少しご紹介します。この実験で興味深い事実は、図9-5のように血圧が下がるほど炎症指標であるhs-CRP数値も下がっていたという点です。これらの研究者はすでに以前のケトン食研究でhs-CRP炎症因子が38.9パーセントも減少したことを確認したことがありました。

FIGURE
図9-4. ケトン食の高血圧改善効果
左:収縮期血圧(通常食140 → ケトン食122、-18 mmHg、p<0.001)/右:拡張期血圧(通常食89 → ケトン食79、-10 mmHg、p<0.001)。
※ ここに2連棒グラフ(収縮期/拡張期、通常食 vs ケトン食)を挿入予定
表9-3. ケトン食前後の人体指標の変化
変数ケトン食前ケトン食後差%有意確率
体重(kg)97.7±14.290.8±13.5-7.12<0.001
BMI37.0±4.434.4±4.3-2.7<0.001
腰回り108.9±12.9102.7±12.5-5.6<0.001
炎症 hs-CRP3.8±4.22.1±2.7-38.66<0.001
収縮期血圧 (mmHg)140.9±9.0122.6±10.1-12.9<0.001
拡張期血圧 (mmHg)88.9±6.778.9±6.7-11.0<0.001

佐藤恵子 体に老廃物が多くなると炎症が多くなり、それで血圧も上がるという論理が合っているようです。

田中博士 そうです。著者らはケトン食で血圧が下がった理由として、体重減少、炎症減少、不必要な老廃物の除去による血液量の減少という3つの要因を挙げました(図9-6)。

FIGURE
図9-5. 血液炎症指標と収縮期血圧の関係
X軸:収縮期血圧の差、Y軸:血液炎症性指標(hs-CRP)。r=0.542、p<0.001。正の相関。
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