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第 4 章

3時限目 ケトン体の安全性・冬眠・胎児ケトン体

田中博士 著 · 🔒 50%無料公開 (続きはプレミアム会員)
0. 0時限目 40日断食の導入とタンパク質代謝の変化 1. 1時限目 消化管免疫系・胃酸と粘液・腸内環境 2. 2時限目 40日断食の5段階変化と児童ケトン研究 3. 3時限目 ケトン体の安全性・冬眠・胎児ケトン体

生理的状態で10ミリモル以下の血中ケトン体は安全な栄養素である

鈴木美咲 博士。数ヶ月も冬眠する動物たちは体に貯蔵されたケトン体を利用して生存するのですか?

田中博士 はい。そうです。動物が体温、新陳代謝、活動を極度に下げて、餌のない状態でも長期間生存できるようにすることをトーパー(torpor)と呼びます。冬眠中のトーパー状態のシマリスは血中にブドウ糖値が低く、代わりにケトン体値が高くなっていました。「適応メカニズムは目覚めの間に冬眠中の哺乳類の心臓と脳でケトンの選好利用を調節する[23]」というタイトルの論文でこれに関する結果を報告しました。5ヶ月間冬眠するシマリスが9月からトーパー状態に入りますが、このときから血中β-ヒドロキシ酪酸の濃度が1.0ミリモル以上に増加するのを見ることができました。そして12月になると2.2ミリモル程度になっていました。この時期に血中ブドウ糖濃度は次第に低くなって、活動期に8ミリモル以上であったのが、9月のトーパー状態の時に7ミリモル以下になり、その後3月にはほぼ3ミリモルに減少していました。これは活動中はブドウ糖を主要エネルギーとして使うが、食べ物がないとき、活動を停止しながら体に貯蔵された脂肪を利用して肝臓でケトン体に変換した後、使用するということがわかります。

これはシマリスだけでなく、ホッキョクグマやコウモリでも同様の結果を示していました。人の場合も冬眠はしませんが、空腹状態では同じくケトン体値が増加して、脳のエネルギーとして利用するようにするのです。これとともにオートファジーで細胞掃除もします。

📊 図4-6. シマリスの活動期と冬眠トーパー状態におけるβ-ヒドロキシ酪酸とブドウ糖の濃度変化

上段(BHB mM):9-10月活動 0.2 / 9-10月トーパー 1.0 / 12-2月トーパー 2.2 / 3月トーパー 2.4 / 12-3月中間覚醒 0.9 / 4-6月活動 0.1
下段(ブドウ糖 mM):9-10月活動 8.5 / 9-10月トーパー 6.5 / 12-2月トーパー 5.0 / 3月トーパー 3.4 / 12-3月中間覚醒 7.2 / 4-6月活動 7.0
※ 冬眠トーパー期にケトン体↑·ブドウ糖↓ という相反する変化

※ ここに図4-6を挿入予定(冬眠期のBHB·ブドウ糖変化棒グラフ)

佐藤恵子 空腹状態でケトン体が血中で値が増加するという生理的原理は理解できました。ところでケトン体の安全性についてどう理解すればよいでしょうか? まだケトン体について馴染みのない方が多いと思いますので。

田中博士 それはいくつかの方法で確認できると思います。第一に、胎児でケトン値が高いということです。そして生まれてから数日間、赤ちゃんはケトン値が高くなりながら、それで脳に必要なエネルギーを供給することになります。赤ちゃんは体で使うエネルギーの70%を脳で使うとお話ししましたよね。ですから約50%のエネルギーはケトン体で供給される計算になりますね。「妊娠性糖尿病および正常分娩中の胎児および新生児のケトン体[24]」という論文を少し見てみるとよいと思います。この研究では胎盤と臍帯血でケトン体の数値を示しています。

📊 図4-7. 妊娠期の胎盤と臍帯血におけるケトン体の数値

左:胎盤β-ヒドロキシ酪酸(34-42週) - 1.0〜3.5 mM 範囲
右:臍帯血β-ヒドロキシ酪酸(34-42週) - 0.5〜1.4 mM 範囲
※ 胎盤·臍帯血ともに正常な生理的ケトン値を示す

※ ここに図4-7を挿入予定(胎盤·臍帯血BHB週別変化グラフ)

表4-1. 母体と赤ちゃんの血液におけるBHBと総ケトン値
単位母体
総ケトン体
母体
BHB
新生児
総ケトン体
新生児
BHB
人数313313313313
平均0.3530.2780.2850.244
中央値0.0990.0620.1780.156
標準偏差0.6190.5150.3200.267
最大値5.3504.4652.3741.980

第二に、ケトン食を通じて上昇するケトン値は10ミリモル以下だという点です。ほとんどは7ミリモル以下にとどまります。この数値は健康に役立つ「生理的ケトン値」と言えます。つまり、I型糖尿のように20ミリモル以上に上がる病理的ケトン酸血症とは違いがあるのです。

第三は、生理的なケトン値では多様な疾病が自然治癒するという報告が蓄積されつつあるということです。次回の時間にも続けて見ていきますが、糖尿、肥満、高血圧、関節炎、歯周炎、癌など身体的疾病だけでなく、うつ病、不安、前脳症、認知症、統合失調症、ADHD、パニック障害など多様な神経学的精神疾患でもケトン食が劇的な改善効果を示す場合があります。甚だしくは精神科薬物で効果がなかった場合でも、ケトン食で改善されたという事例報告があります。

第四は、ケトン食の多様な自然治癒効果に対する分子論的な原因が次第に解明されつつあるということです。これはケトン食が漠然と、または偶然に効果を示すのではないということです。明確な科学的根拠に基づいた効果を認めることになるということです。

第五は、ケトン食が薬物ではなく、我々が日常で楽しんで食べる安全な食品を通じて実現されるということです。薬物が使用量と使用法が厳格に決められる主な理由は、発生しうる副作用のためです。しかし食品はそういう使用量と使用法が決まっていません。なぜなら食品は安全だからです。したがって異常に過剰に摂取する場合でない限り、日常的に摂取する食品を通じたケトン食は安全だと言えるでしょう。

第六は、すでに数百編の論文がケトン食を患者と一般人を対象に施行したということです。これから見ていきますが、多様な研究でケトン率はそれぞれ異なります。しかし広い範囲のケトン率でも、ケトン食は素晴らしい改善効果を報告しています。これは我々の日常でケトン食の安全性を知らせるもう一つの根拠になるでしょう。

ケトン体はブドウ糖よりも効率的なエネルギー源である

小林春子 博士。博士が以前におっしゃるには、空腹状態ではケトン体というものが脳が必要なエネルギーの70%を供給するとおっしゃいました。それでは脂質代謝が本格化するに伴って、脂質の一部が肝臓に移動してケトン体になり、脳にもケトン体が供給され始めるという理解でよろしいでしょうか?

田中博士 そうです。ケトン体は血液に溶けてよく移動します。そして脳の脂質膜もよく通過するそうです。一方、ブドウ糖は脳でブドウ糖を全部使った後、必要なときにのみブドウ糖通路を通じて取り込みます。そのためブドウ糖とケトンの移動効率の差を「押し-引き(pull-push)」で比較したりします[25]。つまり、ブドウ糖は脳内で引っ張らなければならないものであり、ケトン体は脳の外から脳内へと押し出すというのです。ケトン体が脳内へとはるかに移動しやすいということです。人体の血液内のケトン体の値が高くなれば、それだけ脳内に移動するケトン体の量が多くなります。

核心概念 ● ケトン体は押し(push)、ブドウ糖は引く(pull)

  • ケトン体は脳へ自然に押し出される - 移動効率が高い
    血液濃度が高くなれば自動的に脳内移動量が増加
  • ブドウ糖は脳でブドウ糖を引かなければ入ってこない - 移動効率が低い
    脳でブドウ糖が不足すれば、ブドウ糖を引っ張る必要がある

小林春子 脳に供給されるエネルギー源が増加すれば、それだけ脳の活動も良くなりそうですね。どう思われますか?

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