3時限目 オートファジー5段階・リソソーム・ゾンビ細胞・断食とケトン
オートファジーの細胞掃除5段階過程
鈴木美咲 博士。おっしゃった通り先週インターネットでオートファジーについて検索してみました。2016年度に日本の大隅教授がオートファジーでノーベル生理医学賞を受賞されていました。酵母でオートファジーに関連する遺伝子を発見した功労と書かれていました。酵母はビールやパンを作る時に発酵のために使う微生物ではないですか?
田中博士 はい。その通りです。酵母はビールとパンを作る時によく使われる微生物です。ところが酵母は小さいですが真核細胞なので遺伝研究に広く使われています。真核細胞とは核膜があって核膜の中に遺伝子がある細胞です。代謝的にはミトコンドリアがあってエネルギー生成を多く行うことができます。酵母の遺伝子47%を人間の遺伝子で置き換えても生存すると言われています。
佐藤恵子 オートファジーに関連する遺伝子がなぜ必要なのか気になります。
田中博士 遺伝子があるということはタンパク質を作るという意味ですね。まずオートファジーが進行する過程を理解すると良いです[13-15]。オートファジーは細胞内にあるゴミを分解する過程と前回学びましたね。細胞内のゴミには故障したミトコンドリア、凝集したタンパク質、凝集した脂質、凝集した炭水化物、損傷した遺伝子などがあります。ところでこのような細胞内のゴミはいつ掃除されるのでしょうか?
鈴木美咲 前回博士がおっしゃるには、飢えれば、つまり断食をすればオートファジーが始まるとおっしゃいました。
田中博士 はい。そうです。私たちが食べ物を食べないと細胞外部から栄養素が供給されなくなるわけです。しかし細胞は生存のためにエネルギーが必要ですね。この時細胞は細胞内にある栄養素を利用し始めます。最初に利用できるのは細胞内に放置されたゴミですね。
山田佳子 ゴミを掃除するなら掃除道具が必要ですが、細胞内に掃除機やほうきのようなものがあるのですか?
田中博士 良い質問です。細胞にも掃除道具があります。まず細胞はゴミを分解するためにゴミの周りに脂質で膜を作ります。これはまるで建物を修理したりリモデリングする時、建物の周りに安全網を巡らすのと同じです。この時オートファジー遺伝子、つまりタンパク質が必要です。オートファジーの進行過程を核生成、拡張、成熟、融合、リサイクルという5段階に分けることができます。核生成は隔離膜の種が作られるもので、拡張は隔離膜の種が徐々に大きくなってゴミを取り囲む過程と言えます。最終的に隔離膜が完成することを成熟と言いますが、この時作られるものを「オートファゴソーム」と呼びます。続いてオートファゴソームはリソソームと結合をしてこれを「オートリソソーム」と呼びます。実は名前はよく分からなくても構いません。リソソームは50種から60種の様々な酸加水分解酵素が入った袋と言えます。食べ物を食べると消化酵素が出ますね。そのような消化酵素だと考えてください。すると酸加水分解酵素が「オートファゴソーム」内の凝集したタンパク質、脂質、炭水化物と故障したミトコンドリアを分解します。最終的に分解が終わった栄養素はリサイクルすることになります。
山田佳子 ああ。つまり通行人が建物から落ちてくるレンガなどに当たらないようにするのと同じことですね。
田中博士 そうです。細胞内のゴミだけを分解して、正常な細胞内の要素は安全であるようにするのです。ゴミの周りに膜を作る時、タンパク質が必要です。そしてタンパク質を作ることは遺伝子があってこそ作ることができます。遺伝子はどんなタンパク質を作るかについての情報を盛り込んでいるのです。つまり、オートファジーが進行するためにはタンパク質が必要であり、そのタンパク質を作るために必要な遺伝子を発見したのが大隅教授がノーベル賞を取った理由なのです。
📊 図3-7. オートファジーの5段階
オートファジーは次の5段階を持つ:
1. 核生成 (nucleation) - 隔離膜の種ができる
2. 拡張 (expansion) - 隔離膜が拡張しゴミを取り囲む
3. 成熟 (maturation) - オートファゴソーム完成
4. 融合 (fusion) - リソソームと融合してオートリソソームに
5. リサイクル (recycling) - アミノ酸などの基本単位として再利用
【促進】カロリー制限·低酸素·AMPK
【抑制】成長因子·アミノ酸 → mTORC1活性化
※ mTORC1を抑制するとオートファジーは促進される
※ ここに図3-7を挿入予定(オートファジー5段階フロー図)
リソソームは50種以上の酸加水分解酵素を含む細胞内の袋である
鈴木美咲 細胞内のゴミの周りを脂質膜で取り囲むと自然にゴミが分解されますか?
田中博士 良い質問です。自然に分解されるわけではありません。分解するためには酵素が必要です。リソソームは細胞小器官の一つで様々な消化酵素を含む袋です。リソソームは50種類から70種類の様々な酸加水分解酵素を持っています。
鈴木美咲 分解酵素は分解を担当する酵素として理解できますが、酸加水分解酵素とはどういう意味ですか?
田中博士 ああはい。酸加水分解酵素で「酸」は酸性の時に酵素作用が活性化されるという意味です。そして「加水分解」とは分解する時に水分子が利用されるという意味です。
小林春子 それではリソソームが酸性になるというのは、水素イオンがリソソームの中に入らなければならないという話ですか?
田中博士 はい。そうです。酸性とは水素陽イオンが多いという意味ですね。そして水素陽イオンがリソソームの中に入るためにはATPというエネルギーが消費されます。老弱者が断食をすると危険な場合があると申し上げたことを覚えていますか?
小林春子 はい、覚えています。体に気力がある時に断食をするようにとおっしゃいました。
田中博士 そうです。細胞内に老廃物が分解されるためには酸加水分解酵素が活性化されなければなりませんが、このためにはATPを利用して水素イオンが移動しなければなりません。つまり、老弱者はATPが十分でない場合があり、これにより細胞内のゴミ分解作用が円滑でない場合があります。
📊 図3-8. リソソームで酸加水分解酵素が活性化される過程
リソソーム膜にあるV-ATPase が ATP→ADP+Pi のエネルギーを利用して水素イオン(H+)をリソソーム内部に輸送する。リソソーム内部が酸性になると、50〜60種の加水分解酵素が活性化される。
【活性化要因】ビタミンA·B·K·E(高濃度)·プロゲステロン·テストステロン·エストラジオール
【抑制要因】コレステロール·コルチゾン·コルチゾール·ビタミンE(低濃度)·クロロキン·フェノチアジン·抗ヒスタミン薬
※ ここに図3-8を挿入予定(リソソームの酸性化メカニズム図)
鈴木美咲 ああ。つまり壁を分解して基本単位のレンガにし、そのレンガで新しい家を建てるのに利用できるのと同じことですね。
田中博士 はい。その通りです。とても素晴らしい例えですね。
専門化された食細胞は単球と定着食細胞の2種類がある
山田佳子 博士。それでは私たちの体に侵入した微生物もリソソームが分解して基本単位にすることができるのですか?
田中博士 そうです。免疫細胞のうち先天免疫という最初の防御細胞が食細胞です[16]。代表的なのが樹状細胞とかマクロファージのようなものです[17]。人体に侵入した微生物を食べて人体を防御します。実験によるとマクロファージ1個あたり12個まで他の細胞を食べることができるそうです。つまり、マクロファージもお腹が一杯だと侵入した微生物を食べることが難しいのです。代表的なのが飽和脂肪を食べるとマクロファージの活動が遅くなると言われています。
小林春子 だから具合が悪い時は飢えろという話があるようです。犬や自然界の動物は具合が悪いと食べずに飢えるそうです。
田中博士 そうです。専門化された食細胞が肝臓にあればクッパー細胞、肺にあればⅡ型肺胞細胞、脳ではミクログリア、腎臓では腎間質マクロファージ、脾臓では脾臓マクロファージ、骨では破骨細胞、皮膚ではランゲルハンス細胞と言います[19]。元々人体では一日に10ミリグラムの鉄分が必要ですが、このうち9ミリグラムの鉄分はマクロファージが食べてリサイクルして供給し、食べ物としては1ミリグラムだけ供給すればよいのです[18]。私たちの体の細胞数を約37兆個とすると、このうち赤血球の数は20兆〜25兆個程度と言われています。つまり、全体細胞の84%が赤血球なのです。そして赤血球の寿命は90〜120日です。100年生きると仮定しても毎年人体の5倍多くの細胞が死ぬわけです。
鈴木美咲 わぁ〜、驚きです。血が綺麗でなければ健康だと言えないという話が空言ではなかったですね。
田中博士 そうです。だから誠を尽くす祈祷を百日祈祷と言います。私たちの伝統の檀君物語でも、100日間熊と虎が人間になろうとよもぎとにんにくだけを食べて断食しながら洞窟の中で修行する場面が出てくるのではないかと思います。
断食をするとケトン体が増加してオートファジーを促進する
鈴木美咲 断食をするとオートファジーが進行するとおっしゃいました。ところで前回、空腹状態ではケトン体が増加するとおっしゃいました。それではケトン体の増加とオートファジーはどんな関係がありますか?
田中博士 良い質問です。次回の時間にもう少し詳しく見ていきますが、ケトン体が増加するとオートファジーが促進されます。だからケトン体はエネルギー源として使われるだけでなく、オートファジーを促進する信号者としての役割もします。図3-10は私が10日間断食をした時のケトン体の増加推移を表したものです。2日目にすでにケトン体が4ミリモルほどに増加するのが見られますが、これは身長に比べて体重が少なくて、すでにそれ以前にケトン食を数日していたためと推定されます。この状態では細胞内でオートファジーが速く進行したでしょう。
📊 図3-10. 10日間の断食過程でのケトン体と血糖の変化
10日間の断食実験データ:
血糖ブドウ糖(mg/100ml):100→63→57→47→52→51→57→82→71→61→57
血液ケトン体(mM):0.5→3.4→3.6→4.7→5.6→5.6→5.8→6.1→5.8→5.4→6.1
3〜7日目に「癌治癒範囲」に到達。ケトン体が高水準に維持される間、オートファジーが速く進行する。
※ ここに図3-10を挿入予定(10日間断食ケトン体·血糖グラフ)
断食をしてから2〜3日後から空腹感が減る
鈴木美咲 私の知人のヨガをしている方は月に一度は必ず断食をしていらっしゃいます。その方が断食をするのは結局、体内のゴミを掃除することによって、より良くヨガができる状態にすることだという思いがします。これからお腹が空けば自分の体内のゴミとゾンビ細胞が掃除されると考えればよさそうですね。
田中博士 そうです。お腹が空きますが、2日ほどすれば空腹感を感じなくなります。脳の視床下部で食欲を抑制するからです。そして食細胞が全身を細かく回りながらゾンビ細胞や癌細胞、侵入して隠れている各種微生物やウイルスを捕まえて分解して栄養素として活用するでしょう。ロシアのことわざに「一週間の断食は肉体の病を治し、二週間の断食は心の病を治し、三週間の断食は霊魂の病を治す」というのがあるそうです。皆さん、今日の授業はここまでにします。次の授業でお会いしましょう。
重要ポイント ● 断食とオートファジーの効果
- オートファジーは核生成→拡張→成熟→融合→リサイクルの5段階
- リソソームは50〜70種の酸加水分解酵素を含む「掃除袋」
- マクロファージは1個あたり最大12個の死細胞·微生物を食べる
- 飽和脂肪過多はマクロファージ活性を低下させる
- 断食2〜3日で空腹感が減少(視床下部の食欲抑制)
- ケトン体の増加はオートファジーの信号となる
- 「一週間で肉体、二週間で心、三週間で霊魂を治す」(ロシアの諺)
※ 本文中の[12]〜[20]の番号引用は、巻末の参考文献リストに出典詳細を記載する。