1時限⽬ 代謝的神経疾患モデル — パーマー博⼠の理論
神経疾患はエネルギー代謝の問題によって⽣じる。
⽥中博⼠ はい、そうですね。脳が多くのエネルギーを使⽤するため、幼い⾚ちゃんでも成⼈でも、適切な時にエネルギーを供給できないと、脳の機能を⼗分に発揮することが難しくなります。脳に供給される栄養素や酸素が不⾜すると、⼈によってはうつ、不安、双極性障害、統合失調症、ADHD、パニック障害のような精神疾患として現れる可能性があるという主張を「代謝的神経疾患モデル」と呼ぶことができます。
⼭⽥佳⼦ 代謝的神経疾患というと、代謝的な問題によって神経的・精神疾患が⽣じるという意味でしょうか?
⽥中博⼠ そうです。神経疾患を代謝的原因でうまく説明された⽅が何⼈かいらっしゃいますが、その中の⼀⼈がハーバード医⼤の神経学教授であるパーマー博⼠です[61]。この⽅が主張するには、世界的に精神疾患が増え続けているのに、深刻な問題は治療が不⾜しているのではなく、治療⾃体が失敗しているということを痛烈に指摘しています。つまり、精神科薬物による治療が失敗しているというのです。⾃閉症、ADHD、双極性障害、うつ病、統合失調症などが増え続けているのに、誤った観点で治療を続けるので問題が解決されず、ますます多くの⼈々が精神疾患にかかるというのです。
この⽅が統計を提⽰したのですが、⽶国ギャラップ調査で2023年に現在うつ病にある⼈が17.8%で、⽣涯のうちうつ病に⼀度でもかかった⼈は29%にもなったそうです。
DSM-5-TRという「精神疾患診断および統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」があります。これは⽶国精神医学会が出版しているもので、1952年にDSM(I)から始まり、II、III、IV、IV-TR、5を経て、2022年にDSM-5-TRまで出ています。最初DSMは戦争に参戦できるかどうかを確認するために精神疾患判定をすることを⽬的として作られたものでした。その後、⼀般医療でも使⽤されるようになったのです。次第に多くの項⽬が精神疾患に含まれるようになりました。例えば、排泄障害、睡眠覚醒障害、概⽇リズム睡眠-覚醒障害などが作られました。ところがパーマー博⼠は、疾病項⽬が妥当性に⽋け、あまりに異質的で、伴う症状が多いという問題点を指摘しています。そして多くの研究によれば、これら別々の名前を付けた精神疾患が共通の経路、共通の症状と原因を持っているというのです。
多くの精神疾患患者は肥満、糖尿、⼼⾎管疾患、アルツハイマー病など代謝関連疾患を抱えている
パーマー博⼠は根拠をいくつか挙げています。第⼀に、多くの精神疾患患者が肥満、糖尿、⼼⾎管疾患、アルツハイマー病などを抱えているということです。慢性的な精神疾患患者は死亡率が⾼くなり、平均寿命が⼤幅に減少することになります。例えば⼀般⼈と⽐較して、統合失調症は10年から30年寿命が短く、双極性障害は9〜25年、主要うつ病は7〜18年短く現れます。平均的に精神疾患はおおむね男性で約10年、⼥性で約7年寿命を短縮させます。精神疾患患者の直接的な死亡原因は⼼臓疾患、糖尿、がんだそうです。もう⼀つの研究も提⽰されています。1歳から24歳までの⼦ども5千⼈を追跡調査したところ、9歳の時にインスリン値が⾼かった⼦どもは、後に神経学的精神疾患にかかる確率が5倍⾼かったそうです。そして思春期に過体重の場合、後にうつ病の発⽣が4倍多くなったと説明しています。
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