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第 2 章

3時限目 ケトン体生成・GABA・世界の伝統的植物性ケトン食

田中博士 著 · ✓ 無料公開
0. 0時限目 植物性ケトン食の可能性と三位一体の概念 1. 1時限目 6群食品群から三位一体食品群への簡素化 2. 2時限目 三位一体食品群の栄養素比率・ナッツ摂取の注意・フィ 3. 3時限目 ケトン体生成・GABA・世界の伝統的植物性ケトン食

炭水化物を制限し脂質を増やすとケトン体が生成される

佐藤恵子 博士、ところでケトン体が体内で作られるためには、なぜ炭水化物を制限しなければならないのですか?

田中博士 良い質問です。それは生化学的にTCAサイクルを見れば簡単にわかります。図のようにTCAサイクルでは、炭素4個のオキサロ酢酸という分子がアセチルCoAと反応しながら炭素2個を受け取って炭素6個のクエン酸に変化します。クエン酸はTCAサイクルというつながる化学反応過程で2個の炭素を酸素と結合させて二酸化炭素を2個生成しながらエネルギーを発生させます。すると再び4個の炭素のオキサロ酢酸に変わるのです。これが繰り返されるためにはオキサロ酢酸が継続的に供給されなければなりませんが、炭水化物とタンパク質がオキサロ酢酸を供給します。ところがオキサロ酢酸が供給されないと、アセチルCoAが反応できずに蓄積されます。一定の濃度になるとアセチルCoAはケトン体に変化するのです。

佐藤恵子 ああ、それでは2つの部品を組み立てなければならないのに、1つがないと残りの一つは別の種類に変わるようなものですね。

田中博士 そうです。アセチルCoAというA部品とオキサロ酢酸というB部品が結合しなければならないのに、オキサロ酢酸を供給しないとアセチルCoAはケトン体に変化するのです。そしてオキサロ酢酸は炭水化物とタンパク質が供給することになります。

鈴木美咲 不思議ですね。それでは炭水化物をどの程度制限すればケトン体が生成されますか?

田中博士 人によって体質や環境が違うので、一つの数値で示すのは難しいです。ただし1日100グラムを基準にしています。しかしこの後、事例研究で見ていきますが、100グラムでもケトン体が生成されない場合があり、人によっては1日の炭水化物摂取量を80グラムや60グラム、40グラム、20グラムに減らさなければならないこともあります。正確に確認するにはケトン体を測定する道具を使用するのが良いです。血糖計のように家庭で確認できるんです。「ケトン測定器」と検索すれば、インターネットで簡単に検索できます。人体で生成されるケトン体は3種類で、これらが相互変換されるため、ケトン体を測定する方法も3つあります。まずアセトンは呼吸で出る気体で確認します。最も安価ですが、正確性が若干低いという欠点があります。アセト酢酸は尿で出るので尿を利用して測定します。そしてβ-ヒドロキシ酪酸は血糖計のように指先を刺して出る血の滴を小さなストリップにつけて測定し、血中状態を最もよく反映します。

小林春子 博士、でもTCAサイクルを見ると、グルタミン酸ができますね。そしてグルタミン酸からGABAが生成されます。グルタミン酸は興奮性神経伝達物質で、GABAは抑制性神経伝達物質として知られています。この二つは自動車のアクセルとブレーキのような役割をして、神経作用を安定的に調節します。

田中博士 そうです。良い質問ですね。後ほど勉強しますが、現代人は炭水化物偏重食事をしているため、グルタミン酸が過剰生成され、一方GABA生成は減少しているように見えます。このため全脳症発作、ADHD、統合失調症、自閉症、誇大妄想、パニック障害など多様な精神疾患が増加するのに影響を及ぼしています。

小林春子 それではケトン食をするとGABA生成量が増加することができるということですか?

田中博士 研究によればそうです。ケトン体は3種類を持ちます。β-ヒドロキシ酪酸は血中に安定的で、アセトンは過剰のとき呼吸で出ていきます。そしてアセト酢酸は過剰のとき尿で出ていきます。これら三つのケトン体は互いに相互変換されます。ところがアセト酢酸があるとき脳細胞はグルタミン酸をGABAに合成する量を増やすということです[8]。これ以外にもケトン体のGABA生成促進にはまた別のメカニズムがあるものとして研究されています[9]。

📊 図2-2. TCAサイクルとケトン体の生成過程

炭水化物からオキサロ酢酸が供給されないと、脂肪酸から生成されたアセチルCoAがTCAサイクルに入れず蓄積される。一定の濃度になるとアセチルCoAはアセトアセチルCoAに変換された後、アセト酢酸というケトン体になる。アセト酢酸はβ-ヒドロキシ酪酸というケトン体と相互変換される。TCAサイクルで生成されたグルタミン酸は興奮性神経伝達物質である。脳細胞でケトン体の一つであるアセト酢酸があるとき、グルタミン酸はGABA生成を促進する。GABAは抑制性神経伝達物質として興奮性信号を安定的に調節する。

※ ここに図2-2を挿入予定(TCA回路の生化学図、オキサロ酢酸·クエン酸·αケトグルタル酸·グルタミン酸·GABAの流れ)

📊 図2-3. ケトン体の相互変換

アセト酢酸 ⇄ β-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素による相互変換)
アセト酢酸 → アセトン(非酵素的脱炭酸、CO2排出)

※ ここに図2-3を挿入予定(3種ケトン体の相互変換図)

📊 図2-4. グルタミン酸からGABAの生成過程

シナプス前細胞でグルタミン酸 → GABA(GAD酵素)。GABAはシナプス後細胞のGABA受容体A·Bに結合し抑制性信号を発生する。

※ ここに図2-4を挿入予定(GABA合成·シナプス伝達図)

世界の様々な伝統では既に植物性ケトン食を行っていた

鈴木美咲 博士に以前お話ししたと思いますが、私はヨガを始めて3年が過ぎました。最近はアーユルヴェーダといって、ヨガの原理と連携して治癒する方法があります。ところがアーユルヴェーダでもバターやオイル類を主に食べながら治癒する方法があります。これも一種のケトン食原理だと思います。

田中博士 はい、そうです。アーユルヴェーダでもバター類を利用して脂質摂取量を増やす方法があります。そして東洋でも『神仙伝』を見ると辟穀をします。辟穀とは穀物を食べないことなんですが、これは炭水化物を制限することと解釈できます。そして辟穀をしながら代わりに松の実や豆を1日に何粒か食べることが出てきます。松の実や豆は脂質比率が高いです。だから『神仙伝』でも経験的に脂質の比率が修練に役立つということを知っていたという考えになります。これ以外にも、日本の人相で有名な水野南北という方がいたのですが、この方も20歳以前に死亡するであろうこと、これを避けるためには1年間山に行って過ごせと言われ、山にあるお寺で過ごす場面が出てきます[10]。このとき住職が留まる条件として、水野南北に豆だけを食べて1年間過ごすことを提示する部分が出てきます。そして豆だけを食べた1年後、流れる小川を見て自分の人相が完全に変わっているのに気づきます。水野はその後、日本史上一番の人相家として官職にまでつきます。そして後に関連書籍を出すのですが、少食、菜食、規則的な食事が運命を変えると述べました。私はここに加えてケトン食を追加します。

鈴木美咲 食べ物で人相が変わり運命が変わるというのが、簡単に理解できないですね。それは科学的原理があるのでしょうか?

田中博士 良い質問です。ホルモンの多様な機能に対する理解が、質問への答えとして役立つことがあります。ホルモンには組織特異性という性質があります。これは一つのホルモンでも人体の組織ごとにそれぞれ違う機能をするということです。例えば男性ホルモンを挙げることができますね。男性ホルモンは性欲ホルモンまたは攻撃性ホルモンというあだ名があります。つまり男性ホルモン値が高いと性欲と攻撃性が高くなります。動物の世界でも男性ホルモン値が高い場合は攻撃性と支配欲が高いです。だから群れをなして暮らすチンパンジーの間でリーダーは男性ホルモン値が高い場合が多いです。人間の場合、男性ホルモン値が高いと声は低音、髪はハゲ、顔や体には多毛症が現れる傾向が高くなります。そして視覚的認知力が発達し、代わりに聴覚的認知力は低くなります。体に筋肉も多くなります。ところで食べ物の栄養素はホルモンと同じく人体の多様な形態形成に影響を与えます。代表的な科学的報告があるのですが、ガラパゴス島のフィンチ類はくちばしが非常に多様です。ところがその理由は、食べる食物がそれぞれ違うからだそうです。食べ物の栄養素によって骨形成タンパク質4(BMP4)という成分の量が変わるそうです。そして骨形成タンパク質はさらにくちばしの形を変えるのです[11]。

📊 図2-5. 男性ホルモンの多様な作用例

テストステロン(男性ホルモン·攻撃性ホルモン·性欲ホルモン)の多様な作用:性的欲求、声の太さ、髪、ハゲ、多毛症、攻撃性、競争行為、視覚的·聴覚的認知能力、運動能力、力、持久力、筋肉、ストレス耐性。植物性食事は食物繊維·BMI·レプチン·インスリン·IGF1·成長H に影響を与え、動物性食事と異なる方向に作用する。

※ ここに図2-5を挿入予定(テストステロンの組織特異性ネットワーク図)

山田佳子 食べる物によって生まれる姿が違うとは興味深いですね。東西洋に人相というものが顔や身体の姿を見て性格や運命を予測するものじゃないですか。もしかしたらそれがホルモンの多様な作用と関係があるのかもしれませんね。

佐藤恵子 博士のお話を伺ってみると、東西洋で多様な文化的差異があるにも関わらず、ケトン食が暗黙のうちに広く実施されていることを知ることができました。そして最近、科学的にケトン食の長所が究明されているということを博士のおかげでよく分かりました。私も今日からご飯を炊くときに米の量を減らし、豆をたくさん入れて、ナッツ類を献立に追加して食べながらケトン食を試みてみようと思います。

田中博士 はい、良い考えですね。ナッツ類や豆はナトリウムに比べてカリウムが多いので、天日塩を一緒に召し上がるのを忘れないでください。ご飯を炊くときにティースプーンで天日塩や煎り塩などを入れて炊くと良いです。栄養的にはナトリウムとカリウムを1対1で摂取するのが良いです。そしてナトリウムがあってこそ脂肪酸、アミノ酸、炭水化物などが吸収しやすくなるんです。それでは次の午後の授業時間にお会いしましょう。

ありがとうございます。

※ BMP4は骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)の一種で、骨形成、細胞成長、分化に重要な役割を果たすタンパク質である。特に骨形成を誘導し、組織生成および再生にも関与する。骨だけでなく他の組織の成長と分化にも関与する。神経細胞、皮膚、血管など多様な組織の発達と機能に影響を与える。

※ 本文中の[8]〜[11]の番号引用は、巻末の参考文献リストに出典詳細を記載する。