3時限⽬ ケトン⻝のがん治癒効果 - 4つの主要研究レビュー
「ケトジェニックダイエットとケトン体はPD-1遮断剤の抗がん効果を強化する」
⽥中博⼠ それではケトン⻝ががん治癒に役⽴つでしょうか? これに関連した研究を⾒てみましょう。最初に⾒る論⽂は「Ketogenic diet and ketone bodies enhance the anticancer effects of PD-1 blockade」です。⽇本語では「ケトジェニックダイエットとケトン体はPD-1遮断剤の抗がん効果を強化する[57]」です。ここでPD-1はがん細胞が持っている免疫回避物質の名前です。がん細胞はPD-1を作って免疫細胞を無⼒化しながら、がん細胞は増殖することができます。
このような現象が明らかになった後、PD-1を遮断する薬物を開発しました。PD-1遮断剤はがん細胞を治療する薬物として使⽤されます。だからこの研究はPD-1遮断剤を使⽤しながらケトン⻝をするとさらにがん治癒効果が⾼まるかを確認したものと⾔えます。マウスを無作為に2グループに分けました。このうち1グループは⼀般⻝を提供し、もう1グループはケトン⻝を提供しました。そうすれば2グループの差を⽐較できるでしょう。ケトン⻝はカロリーで脂肪が4、たんぱく質と炭⽔化物を合わせたものが1の⽐率に合わせたものです。だからケトン⽐が4になりますね。
12⽇間実験した結果、がんの⼤きさは⼀般⻝をしたグループよりケトン⻝をしたグループが⼩さかったです(図10-6)。平均的に⼀般⻝をしたマウスのがんの⼤きさが60平⽅ミリメートルである⼀⽅、ケトン⻝をしたグループは38平⽅ミリメートル程度に留まりました。
⼀般⻝ vs ケトン⻝
6⽇後: 約18 vs 約14(p=0.06)
9⽇後: 約30 vs 約22(p=0.004)
12⽇後: 約60 vs 約38(p=0.0006)
⼭⽥佳⼦ 60と38なら、ケトン⻝をすることで約がん細胞が37%減少した計算ですね。
⽥中博⼠ そうです。ケトン⻝のがん治癒効果は、がん細胞に結合する蛍光物質を投⼊して撮影した写真でも明確に現れていました。しかし、⼀般⻝をしたマウスやケトン⻝をしたマウスの体重には⼤きな差はありませんでした。当然の結果ですが、⾎漿、肝臓、⼼臓のケトン体濃度はケトン⻝をしたマウスが⾼い数値を⽰しました。そしてケトン体の数値が⾼いほどがんの⼤きさは⼩さくなっていました。
佐藤恵⼦ 蛍光物質を被せて写真を撮ったのを⾒ると、さらに確実に理解できる気がします。蛍光物質ごとに⾊が違うので研究しやすそうですね。
⽥中博⼠ はい。そうです。蛍光物質を⽣物学に利⽤するようになって、本当に多くの研究が発展できました。科学の歴史で⾒ると、研究装置が開発されることで途⽅もない⾶躍がなされるのをよく⽬にします。
「ケトン体により誘導された代謝再プログラミングは膵臓がん悪液質を減少させる」
⽥中博⼠ 次に⾒る論⽂のタイトルは「Metabolic reprogramming induced by ketone bodies diminishes pancreatic cancer cachexia」です。⽇本語では「ケトン体により誘導された代謝再プログラミングは膵臓がん悪液質を減少させる[58]」です。この研究は⼈間とマウスの膵臓がん細胞を利⽤しました。悪液質は様々な種類のがん患者に現れ、筋⾁量を減少させ、脂肪貯蔵を枯渇させます。
⼭⽥佳⼦ 博⼠。がん患者になぜ悪液質が現れるのですか? がん⼿術後よく⻝べるように⾔われて頑張って⻝べても、体がだんだん弱くなるんです。実は⼿術して抗がん剤治療をしながらは⻝欲も落ちて、ご飯を⻝べてもうまく消化できないんです。
⽥中博⼠ はい。そうならざるを得ないのは、がん細胞はブドウ糖1分⼦あたり2個から4個のATPしか⽣産できないんです。⼀⽅、正常細胞は同じブドウ糖1個で38個のATPを⽣産します。がん細胞はエネルギー⽣成効率がほぼ9分の1にしかならない計算です。だからそれだけ燃料がたくさん必要になります。特にがんはミトコンドリアが損傷した場合が多いため、それだけ多くのブドウ糖、つまり炭⽔化物を必要とします。だからがん患者は炭⽔化物を⻝べれば⻝べるほど、がんがだんだん早く成⻑することになります。がんが⻝べた後の残りかすを正常細胞が⻝べる計算になるのです。
⼭⽥佳⼦ あぁ。そうですね。このように説明を聞くと、ケトン⻝の必要性がさらに⼤きくなるようです。
⽥中博⼠ はい。この研究は1グループには⼀般細胞培地を、もう1グループには栄養素としてケトン体を追加しました。図10-9(a)で⾒るように、分析結果ケトン体の濃度を⾼めるほど、がん細胞のブドウ糖吸収量が減少しました。そして(b)で⾒るようにがん細胞が餌として利⽤するグルタミンの吸収も減少しました。(c)で⾒るようにケトン体を多く加えるほど、がん細胞が発酵をしながら⽣成する乳酸も減少しました。このような結果は⼈間の膵臓がん細胞(NaHB)やマウスの膵臓がん細胞(LiAcAc)も同じように現れました。
図10-9(d)で⾒るように、がん細胞が⽣成するエネルギーであるATPの量もケトン体を多く加えるほど減少しました。そして図10-10(b)で⾒るように⽣成される活性酸素量も減少しました。⼀般的にがん細胞はミトコンドリアが故障していて活性酸素を多く放出する特徴を持っています。ケトン⻝が活性酸素を少なく放出するということは、それだけがん細胞の活動が減少したと推定できるでしょう。
ブドウ糖を吸収するためにはブドウ糖が移動する通路であるGLUT1が必要ですが、図10-10(a)と(c)で⾒るようにケトン体を加えるほど、⽣成するmRNAとDNA量が減少しました。
(b) がん体積(mm³): 対照群約820 vs ケトン⻝約350
(c) 筋⾁重量(g): 対照群0.06 vs ケトン⻝0.11(ケトン⻝の⽅が⾼い)
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